平成24年、厚労省は「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告書」と「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を発表し、そこでは職場のパワーハラスメントの概念とその防止策が記載されています。
職場のパワハラを放置すると、当該従業員だけでなく職場の生産性が低下します。さらに、会社がパワハラを巡る法的トラブルを抱え込み、その損失は甚大です。
したがって、会社の利益追求の観点からも、パワハラ防止策を講じることが急務となっています。
労働施策総合推進法(2019年5月29日・中小企業は2024年3月31日までは努力義務)により初めて規定されました。
労働施策総合推進法において、パワハラとは、「職場において行われる」、
「①優越的な関係を背景とした言動であって」、
「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」、
「③その雇用する労働者の就業環境が害される(身体的・精神的な苦痛を与えること)もの」
で①から③の全てを満たすものと定義されました。
職場のパワーハラスメントは、上司から部下に対する暴行をイメージしがちですが、もちろんそれだけでなく、上司から部下だけでなく、同僚間や部下から上司にも行われ、つまり、働く人の誰もが当事者となり得るものとされています。
上述の報告書は、パワハラの典型的な行為を以下のように定義しています。
(典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
典型的には、
・殴る、蹴る
・本人に向かって物を投げつける
・ネクタイを引っ張る
等が該当します。
これらの行為は、業務の遂行に関係するものであっても、「業務の適正な範囲」に含まれるとすることはできません。
該当すると考えられる例として、①~④が挙げられます。
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。
①言動の内容~人格を否定していないか?
②回数~繰り返し行っていないか?
③態様~威圧的、陰湿ではないか?(大声で怒鳴る、陰で誹謗中傷など)
④発言の場~発言の場に配慮があったか?(多くの人がいる場での発言など)
等の諸般の事情により判断します。
「バカ」、「あほ」、「死ね」、「小学生以下か」、「給料泥棒」、「お荷物」、「目ざわり」、「いてもいなくても同じ」、「いつ辞めてもらったってかまわない」など
(ア)該当すると考えられる例
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
(イ)該当しないと考えられる例
① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。
(ア)該当すると考えられる例
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
(イ)該当しないと考えられる例
① 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。
(ア)該当すると考えられる例
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
(イ)該当しないと考えられる例
①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
(ア)該当すると考えられる例
①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する(アウティング)こと。
(イ)該当しないと考えられる例
①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。
職場のパワーハラスメントを予防するために上述の報告書は、以下のような予防策を提言しています。
①トップのメッセージ
➣組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す
②ルールを決める
➣就業規則に関係規定を設ける、労使協定を締結する
➣予防・解決についての方針やガイドラインを作成する
③実態を把握する
➣従業員アンケートを実施する
④教育する
➣研修を実施する
⑤周知する
➣組織の方針や取組について周知・啓発を実施する
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